備忘録
2019.07.25
重度の扁桃周囲膿瘍に対する漢方自験例③
扁桃周囲膿瘍は繰り返し発症することが多いので扁桃腺摘出を考えられてはどうですかと4月入院した際に日赤の主治医に提案されていた。「いや、まだ試したいことがあるのでその後で考えます」と私は返答した。
それは発症初期に漢方処方で対処できなかったことが悔やまれたからである。加えて自身が漢方一貫堂医学でいう解毒証体質(炎症体質)であることは以前から自覚はしていたが、扁桃周囲膿瘍による2度の入院を経て解毒証体質改善に真剣に取り組みたいという思いがあったからである。
4月入院時、病室で時間を持て余すことの無いよう、出版する予定で立花秀俊先生の『山本巌流漢方による傷寒・温病診療マニュアル』の原稿整理を行っていた(2019年10月刊行)。その原稿を読んでいて初動治療で何が間違っていたのか気づかされるフレーズがあった。
「温病とは、寒邪に傷られて傷寒として発症するが、極初期の悪寒が時には自覚できず、直ちに化熱して熱証になった傷寒病である」である。
つまり扁桃周囲膿瘍は温病だと自身で思い込んだのが間違いだったのではないか。処方としては柴葛解肌湯の方意で初動対応すべきであり、葛根湯または麻黄湯などの解表剤と小柴胡湯加桔梗石膏を併用・合方するべきだったのではないか。しかも『山本巌の臨床漢方』p.1524-1525にはまさにそのように例示解説されているではないか(いつもは真っ先に見て参考にする本なのに……)。
そう考えていた矢先、4月の状況と酷似した状況に陥った。朝起きると咽頭痛があり、扁桃周囲が赤い。解表剤を念頭に自身を注意深く観察すると浮脈、微悪寒、無汗、体温37.4℃、少し筋肉痛のような不快感、まさに解表剤を使うべき所見がある。そこで常備していた葛根湯+小柴胡湯+桔梗石膏各1包を朝食後とその2時間後に服用し、正午頃には咽頭痛・咽頭発赤を含めて諸症状は消失してしまった。
傷寒病・温病を教科書的に分類することはともかく、臨床的には区別することなく両方合わせて考慮・対応することの大切さを『山本巌流漢方による傷寒・温病診療マニュアル』から学んだ。感冒・インフルエンザなど感染症の自己防衛対策として今後も参考にしたい。
それともう一点、「中医昇降学」をテーマとした出版の準備を年月をかけて進めてきている。ここで重要なことは、漢方治療も鍼灸治療も人体における気の昇降・出入・開闔(閉)を円滑にすることに他ならないということ。扁桃周囲膿瘍はまさに昇降・出入・開闔(閉)障害の産物そのものと思われ、初動治療における解表剤は必須だったのだと遅ればせながら今は確信している。