備忘録
2021.01.08
強い病邪のカゼに対する漢方自験例
X-1日、そんなに酷くはないがたまに希薄痰を伴う咳が出て下気道に痛痒い感覚がある。
X日朝、頻繁ではないが希薄痰とともに咳が顕著になってきて下気道の痛痒さと咽頭痛を自覚し珍しく瞼が浮腫様になっていた。熱感はない。午前中仕事で外出、しかし悪寒、浮脈、頭痛、全身節々の痛み、無汗が次第に明らかになってきた。よりによって緊急事態宣言発令時にカゼを引くとは……と思う一方で、カゼの漢方を自身で試せる絶好の機会が久々に到来したとも……。しかも今回の病邪は結構勢いがあり相手に不足はない。手持ちの葛根湯・小柴胡湯・桔梗石膏エキス剤各1包(柴葛解肌湯の方意)を服用、しかし外出先では寒くて効果が感じられない。
自宅へ戻り高齢母らが同居のため、時節柄自己隔離状態で発汗療法を行うことにした。処方の選定と服用法は『山本巌流漢方による傷寒・温病診療マニュアル』を参考に我が家の常備薬の中で行った。
X日16時の検温38.8℃。葛根湯・小柴胡湯・桔梗石膏エキス剤各1包を16時、18時、20時の服用とし、ネギ・ショウガ入りのうどんを食べて布団むし状態に入った。3時間ほどしっかり発汗して、悪寒・全身節々の痛みは消失、頭痛・咽頭痛も10→2になるも、熱感は顕著、勢いのある数脈、咳込みと下気道の痛みは変わらず。この時点の検温は38.7℃で解熱の気配がない。
太陽病期主体から少陽病期主体になったと判断し、ここで解表剤の葛根湯を止め、小柴胡湯・桔梗石膏・麻杏甘石湯エキス剤各1包とし、22時に服用、30分後には効いている感があり、検温23時38.1℃、24時37.5℃。24時、X+1日3時、6時にも服用し、8時の検温36.7℃、かなり楽になった。だが咽頭部・下気道の炎症性浮腫感が少し残り、時折痰を伴って咳も出てまだ完全緩解ではない。10時〜14時の検温37.0〜37.4℃、特に熱感はない。
このとき熊本赤十字病院のK医師が講演の中で救急外来で対応したCOVID-19感染患者の経験から、湿度の高い中国武漢発祥のウイルスのためか湿の傾向があり、病状にしつこさがあり、長引くと急変する、軽症に見えても肺炎像を呈することがある等と述べられていたことが脳裏をかすめる。自身の舌象も湿邪を意味するやや膩苔を呈している。夕刻になると咽頭痛が少しぶり返してきた。
やはりここは小柴胡湯を使いながら麻黄+石膏の処方をこのまま継続してとどめを刺したいところだが、身体の気の昇降出入運動の要である消化吸収機能に一層配慮した処方が自身にとっては望ましいと考え、小柴胡湯を五積散に変え、桔梗石膏・麻杏甘石湯を併用し寒熱のバランスを調整して服用することにした。多くの方意(五つの積を瀉す)をもつ五積散はこんな時にも応用のきく便利な処方である。
X+1日17時に服用してから頻繁に白~黄色痰を吐出し始め、20時、23時、X+2日4時に服用、7時以降の検温36.4℃で安定。その後も同処方を3~4時間おきに服用、痰の出る間隔は次第に長くなったがX+3日も続き、食欲良好の状態のまま咽頭部・下気道の違和感は消失しスッキリと治っていった。
今回の感冒症候群では抗原検査・PCR検査を受けていないが、症状の苦痛度は過去に罹患したインフルエンザA型同様にキツかった。感冒症候群は初期治療が大切で、すぐに対処できる漢方治療は適切に用いれば病邪が強くてもやはりよく効く。