備忘録
2025.05.25
扁桃周囲膿瘍の漢方自験例⑤
重度の扁桃周囲膿瘍で気道が閉塞しかけて最後に救急搬送されてから6年が過ぎた。
扁桃周囲膿瘍は再発率が高いと耳鼻科専門医のアドバイスもあり、その後、解毒証体質改善にも取り組んできた。
新型コロナ感染したとき以外は咽頭痛を発症することもなく、あまり意識することもなくなっていた(喉元過ぎれば熱さ忘れるか)。
10日ほど前の顔面打撲傷が軽快したと思ったら、久々に日中、軽い咽頭痛を自覚した。
直ぐに治るだろうと、たかをくくり、いつもの様に夕食時にやや多目の晩酌をして就寝。それがいけなかった。
夜中に強い咽頭痛と嚥下時の喉の痞えと異物感覚で目が覚めた。
起きて鏡で咽喉部を見ると、左扁桃周囲が暗紅色に顕著に腫脹している。
明らかに過去に重症化した扁桃周囲膿瘍の直前段階である。
これまでもこの状態から一気に重症化して気道が閉塞しかけた恐怖の記憶がそこで蘇った。
まずは常備している漢方薬の中から柴葛解肌湯の方意でツムラ葛根湯、コタロー桔梗石膏、ツムラ小柴胡湯各1包を服用して再び床に着いた。
解表して汗をかいた。しかし朝になっても扁桃周囲に変化はなく痛みも変化がない。
おまけに葛根湯の麻黄の副作用で尿閉に陥ってしまった。
過去に2度も重度の扁桃周囲膿瘍で救急搬送された経験から不安に怯えながらも、今度こそはと常備漢方薬の中で再度対策を考えた。
参考文献は『山本巌の臨床漢方』『症例&144処方臨床解説』『一貫堂医学による治療の実際』『中医昇降学』である。
病態は扁桃周囲左の顕著な腫脹・鬱血・炎症。上熱で停滞している気の昇降を通じさせる必要があるのではないかと考えた。
麻黄が少量含まれているが防風・荊芥・薄荷で発表、桔梗・石膏・連翹・山梔子の消炎と去痰、大黄・芒硝・甘草の瀉下、滑石・山梔子で利尿による清熱利湿、人体の全ての穴から湿熱邪気を排出する発表攻裏のツムラ防風通聖散をベースにすべきかと。
そして咽喉部への薬効強化を考え桔梗・石膏を増量すべくコタロー桔梗石膏、清熱解毒利湿を強化すべくコタロー竜胆瀉肝湯、さらに膿瘍部位が暗紅色の鬱血、急性瘀血と考え、枳実も含まれる駆瘀血剤の通導散(排膿散及湯の方意も加味、そして瀉下の強化)それぞれ1包ずつ合わせて服用した。
中島随象先生の竜Ⅱ号と導Ⅱ号の混合に桔梗石膏を増量したような処方である。
<処方>
ツムラ防風通聖散1包(2.5g)
コタロー桔梗石膏1包(2.0g)
コタロー竜胆瀉肝湯1包(3.0g)
コタロー通導散1包(4.0g)
そういえば以前、京都漢方研究会の食事会の席で、宮崎の前村勉先生が歯肉炎だか何だったかが顕著に悪化したときに防風通聖散を中心に駆瘀血剤を併用してよく効いたお話をされていたことも思い出した。
翌朝8時から11時、14時、17時と上記処方を服用。
幸いにもその効果は大変鋭く、服用のたびに痛みが軽減し、2方目辺りから悪臭のある液(膿か?)が口中に出てきて吐出。
夕刻には気持ち良く下った。
膿瘍箇所は顕著に縮小し、その日のうちにほぼ解消し、面白いように効いてくれた。
山本巌先生仰せの如く、病態と薬能を考えて処方を組むことの大切さをまさに実感した。
うまく使えば漢方は大変よく効く。
ちなみに6年前のときは、耳鼻咽喉科を受診しながらも重症化を防ぎきれず救急搬送されることとなった。
